突然言われた言葉に、とっさにジーナは固まった。
ベッド脇のパイプ椅子に腰掛けたラドラスは、今度はにやっと白い歯を見せてジーナに笑い掛けた。
「へぇ。やっぱ可愛いとこあるじゃん。」
「……黙れ。殺されたいのか?」
二人が違う意味を込めた視線で睨み合っていると、灰色の扉がノックされた。
「ラドラス。ジーナの具合はどう?」
ジーナはハッとして顔を上げた。その声で、先程までの記憶が一気に蘇った。
「王子!」
「その声、ジーナ!?」
入るよ、という性急な声と共に、ガチャッとドアノブが回され、勢い良く扉が開いた。
部屋に入ってきた王子の様子を見て、ジーナは言葉を失った。
「お前…何で…?」
「ジーナ、よかった!目が覚めたんだね。」
「お前、何で無傷なんだ?」
ジーナは困惑してベッドに近寄ってきた王子を見上げた。
その言葉に対し、少し困ったように微笑む王子は、確かに無傷だった。あれ程腫れていた目の上の青あざや、他にも殴られた跡などが消え、元の整った美しい顔に戻っている。肩に緩くかかる金髪に染み込んでいた血もすっかり落ち、青い衣装も洗ったように綺麗だ。巨大なコウモリに噛まれた肩の傷も癒えているように見えた。
王子が口を開こうとしたその時、ラドラスが手を挙げてそれを制した。
「その前に、自分の体を見てみたらどうだ。お前の傷も全快してるだろ?」
そう言われ、初めてジーナは自分の体を見下ろした。と同時に、驚いて目を見開く。掌を開いてみても、すねの辺りを触ってみても、確かに傷つけられた覚えのある場所に、傷口がないのだった。皮膚は元通りで、それどころか、服に破れた跡さえない。鳩尾の痛みも消えている。
ラドラスとの再会に気を取られていて、ちっとも気づかなかった。
「これは一体……どういうことだ?」
眉を潜めて二人を仰ぎ見ると、ラドラスは嬉しそうにニコニコしながら、ばしばしと王子の肩を叩いた。
「いやぁ、こいつは便利な力を持ってるな。ここまで完璧な癒しの能力は、そうはないぜ。」
「癒しの能力…?」
ジーナはますます違和感を覚えた。
癒しの能力と聞いて覚えがあるのは、王子がかつていた領域で持っていた力のことぐらいである。しかし王子は、自分の領域を越えるためにその能力を犠牲にした。その力が今、ここにあるわけがない。