「この宝探しはね、簡単な謎掛けの連続なのよ。
いくつかの重要なポイントにさえ気が付けば、あとはどうって事ないの。
ひとつはあのスマイル君、そしてもうひとつは、最初のテープで雅則兄さんがパブロを抱いて示した時、その手にワインの満たされたワイングラスがあった事。
このふたつのものが、地下のワイン貯蔵庫を暗示しているという事に気付けば、次にどうしたらいいかが分かってくるわ。
私は図書室でワインの本を調べたの。
ラベルに猫の絵が描いてあるワインは、すぐに見つかったわ。
『シュバルツェ・カッツェ』
だけどその猫は、全部黒猫だった。
でも雅則兄さんは三毛猫を強調していた。
この黒猫と三毛猫のふたつのものから、赤ワインを連想させるっていうのは、いかにも謎々って感じよね。
そして『パブロ』よ。
パブロ・ルイス・ピカソ。
今度はピカソに関係のある赤ワインを本で探した。
それもすぐに見つかったわ。
1982年の『シャトー・ムートン』
この中に水晶のクイーンが隠してあるって事は、誰でも想像がつくでしょ。
あれだけたくさんのチェスの駒の中から、なぜあの水晶のクイーンをこのゲームに選んだのか?
それは普通の大きさのクイーンでは、ワインボトルの口から入らないのよ。
雅則兄さんがあの小さい水晶のクイーンを選んだのは、ワインボトルに入る大きさの駒は、あれしかなかったからよ。
私は白のクイーンを探し当てるのに、一歩も図書室を出なかったわよ」
「なるほど、たいしたものだ」
鹿島が目だけで笑った。
「でもここで問題が起こったの。
喜久雄兄さんと友子さんが、みんなの見張りを始めたこと。
私は動きを封じられたわ。
チェスの戦法で言うなら『ピン』されたわけ。
へたな動きをすれば、私も宝探しをしているのが分かってしまう。
それだけは絶対に避けたかったの」
「どうしてですか?」
「それがこのゲームに勝つ唯一の方法だからよ。
このゲームは宝を探すだけじゃダメなのよ。
なにしろニ百八十億円の価値のある権利書ですからね」
そう言って孝子は、自分の持っている四枚の封筒をチラッと見てから、話を続けた。