欲望という名のゲーム?119

矢口 沙緒  2010-09-03投稿
閲覧数[578] 良い投票[0] 悪い投票[0]




「私が最初にそれを見付けて、そして遺産を一人で相続したら、それをみんなが知ったら…
私は無事に済むかしら?
みんなの前で私が遺産を相続してしまったら、もう雅則兄さんのゲームは意味がなくなるのよ。
今度意味を持つのは、私の命。
駅のホームで電車を待っている時に、後ろから押されるかもしれない。
一人で夜道を歩いていたら、不審な車に轢き殺されてしまうかもしれない。
とにかく私が死ねば、私の相続した遺産を、今度は残った兄弟三人で分配できるのだもの。
そうでしょ。
もちろん私の兄弟達だから、みんな紳士淑女よ。
そんな事するはずがないわ。
でも、人間の欲望って怖いのよね。
最初から手に入らないと分かっている物には、それほど執着しないのよ。
だけど反対に、もう少しで手に入りそうだった物には、異常な執着を示す事があるの。
欲しくて欲しくて、自分を抑えられなくなってしまう事がある。
それが欲望よ」
「つまり、守りを固めたという事ですね」
「あのビトゥイン・チェスの時に言ったじゃない。
このゲームで一番大事な事は、まずキングの逃げ道を確保する事だって。
誰にも知られずに宝を見付け出す事が、このゲームに勝つ、ただひとつの方法なのよ。
だから私は宝探しに興味のないふりをし続けた。
私もお芝居をしていたのね。
鹿島さんと同じように…」
「私が芝居を?
いったい何の話です?」
孝子は少し笑った。
「いいのよ、別に。
まだ、話は終わってないんだから。
とにかく私は、迂濶な行動は控えなくてはならなくなった。
喜久雄兄さんと友子さんの見張り作戦は、私には脅威だったわ。
絶大な効果があったの。
地下のワイン貯蔵庫に行って、白のクイーンを取って来たくても、それが出来ないんですもの。
もし私がお酒が好きなら、ワインが飲みたくなったから、という理由で地下のワイン貯蔵庫に行けるけど、最初のテープの中で雅則兄さんが
『孝子はアルコールが弱かった』
と言ってしまってるから、私が地下にいく正当な理由がないのよね。
その私が地下に行くところを見られたら、不審に思われるかもしれない。
だから私はチャンスを待った」
「なかなか用心深いですね」
鹿島が孝子を見下ろしながら言う。



i-mobile
i-mobile

投票

良い投票 悪い投票

感想投稿



感想


「 矢口 沙緒 」さんの小説

もっと見る

ミステリの新着小説

もっと見る

[PR]


▲ページトップ