「それで、そのボールを使うと、一時的に力が戻るんだったな。私が使っても同じ効果があるのか?」
「ああ。試してみるか?」
ラドラスが手に持ったボールをジーナに渡しかけたのを、慌てて王子が止めに入った。
「ラドラス!」
真剣な王子の目の色を見て、ジーナは眉を潜める。なぜ焦っているのだろう?
ラドラスは面倒そうに息を吐くと、「あー、そうだな。やっぱやめとくか。」と言って、ボールを懐に戻した。
「私が試してはいけないのか?」
ジーナが少し不機嫌になりつつ聞くと、王子は小さく首を横に振った。
「そうじゃないんだけど……、ただ、その、ボールの力がとても強いから、あんまり体に良くないんだ。」
王子はそう言い淀んだ後、縋るようにラドラスを見た。ラドラスが代わりに説明する。
「一時的にでも力が戻るってことは、それなりのリスクが伴うってことと同義さ。波長を乱して、犠牲にした能力を再び呼び戻すわけだから、俺達のような想像物にはちょっと負担が強すぎるってこと。」
「……それで、そんな危険なやり方をわざわざ王子に教えたのか、お前は。」
ジーナはきつくラドラスを睨んだ。ラドラスは素知らぬ顔で目を逸らし、王子は「僕は大丈夫だよ!」と慌てて口を挟む。
「それに、どのみち僕もジーナも回復しなきゃ、次の労働に駆り出された時、本当に危なくなるし……。むしろ教えてもらえてよかったよ。」
ジーナはそれでも納得いかなかったが、王子の食い入るような顔に、溜め息をついて頷いた。
「わかった。だが、次からは使うなよ。お前が消えては元も子もない。」
王子の頭に手を置いてそう言うと、王子は一瞬きょとんと目を丸くし、それから笑った。
「うん。必要な時以外は使わないように気をつけるよ。」
「お前、私の言っている意味がわかっているのか?」
ジーナは呆れて口を開けたが、それでも王子の表情は変わらず綻んでいた。その意味に気づいて、ジーナはふっと目を細める。
(そうか。こいつは自分が役に立てるようになったことが嬉しいのだな。)
王子は己の非力さをいつも気にしていた。あまり口には出さないが、様子を見ていればわかる。癒しという強力な能力が一時的にでも取り戻せるなら、それだけのリスクを冒すだけの意味が、彼にはあるのだろう。
その時、突然ガタッと大きな音を立てて、ラドラスが椅子から立ち上がった。