「そして三日目にチャンスは来たわ。
明彦兄さんが庭の木の根元を掘り出した時よ。
貴方も含めて全員が木の所に集合していた。
私は地下に降りて、ピカソのラベルのシャトー・ムートンを自分の部屋まで運んだの。
そして、白のクイーンを手に入れたのよ」
「三日目にして、すでに白のクイーンを…
なんと、素早い」
鹿島はそう言って再び目を細め、孝子に一歩近付いた。
「先手必勝って言うでしょ」
孝子が一歩後ろに下がる。
「その夜の食事の後で、例のレモンパイが登場したわけよ。
あれは傑作よね。
雅則兄さんの苦心の策だわ。
なぜあのヒントをテープの中で言わずに、あんな形にして提出したのか?
あれは、私達を驚かせるのが目的ではないわ。
本当の目的は、兄さんが貴方を警戒したためよ。
貴方が遺産相続の権利書を探し回る事は、兄さんもあらかじめ予想していたのね。
だから、一番重要な手掛かりを、あんな形で伏せたのよ。
貴方がほかのテープを何度見ても、あのヒントだけは手に入らない。
あれがなくては、権利書を見付けるのは絶対に不可能ですからね。
雅則兄さんは用心深かったわよ。
ほかのどのテープにも、レモンパイについては一言も触れている箇所はなかったもの。
もっとも兄さんの心配は取り越し苦労だったけど。
だって貴方は結局、白のクイーンまでも、たどり着かなかったんですからね」
「孝子様は、何か思い違いをなさっているようですね。
私がなぜ権利書を探さなくてはいけないのですか?
私には相続権はないんですよ。
私には、何の価値もない物です」
「確かに貴方には相続権はないわ。
でも、うまく利用すれば、かなりの金額が手に入るのよ」
「ほう、そんな方法があるのなら、是非とも教えていただきたいものですね」
「いいわよ。
貴方の最初の計画はこうだと思うわ。
貴方は私達がここに来る前に、あの権利書を見付けてしまおうとしたのよ。
そしてそれをどこかに保管してしまう。
その後で、私達は何も知らずにここへ来る。
そして、あのテープの要求に従って、遺産を放棄する書類を書く。
あの遺産放棄の証書を、貴方はどうしても欲しかった。
後でトラブルが発生しそうになっても、あれさえあれば問題は起きないわ。
そうよね」
孝子は少し笑い、先を続けた。