もうすぐ夏だなぁ…
外は少し生ぬるい空気で、エリカの気持ちはますます沈んでいった。
「あ…」
久しぶり。
初めて見るあのヒトのスーツ姿。
彼がこっちを見た。
「…」
視線をそらされた。
いきなりキョロキョロしだす彼。
なんだ、次あったときよろしくって…社会辞令ってやつ?
フン、チャラ男め!!
エリカが彼とすれ違ってすぐだった。
「エリカ」
エリカはゆっくりと振り返った。
「今日出勤だったんだ…」
「はい…」
沈黙…
なんだかいつもと雰囲気違う。スーツのせいもあるけど…店長さんって以外と口下手?
「お疲れさまです。」
「あ、おう、お疲れ。
仕事がんばれよ。」
ホッとした。
名前を呼ばれた瞬間から今日1日あったイヤなことも全部忘れた。
昔から親からも親戚からも勉強勉強とプレッシャーをかけられてきた。エリカって呼ばれるとビクビクしていた。
夜を始めてからは、エリカでいる時間よりルイでいる時間のほうが長く感じたから、自分の名前がエリカだっていう意識が薄くなっていた。
エリカ
名前を呼ばれることがこんなに温かいことだなんて知らなかった。
出会って3回目。
気のせいなんかじゃない。
エリカはあのヒトのことが好き。