七色の金魚?

MINK  2006-09-01投稿
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「返してよ。彼との思い出」
「あなたが忘れたいと言ったんじゃないか」
「そしたら楽になると思った」
叔父さんの言った事は嘘じゃなかった。それについては何も言えなかった。
「忘れたいと言うから忘れさせてあげたんだ」
「忘れたかった。私一人残して逝った奴の事なんか!!」
「なら、いいじゃないか」
「駄目なの。彼の記憶だけでも、彼がいないと私は駄目なの」
涙が出た。止まらなかった。止めようとも思わなかった。
「消していい記憶なんて何もなかったの」
「じゃあ、なぜ消したかったんだい」
「会いたかったから。五年間」
叔父さんは、一つため息をついた。
「あんたが初めてだよ。記憶を消しきれなかったのは。よっぽど消しちゃならない思い出らしいな」
私は泣いた。止めない涙は、どうしようもないくらい流れた。
「ごめんなさい。私は彼を忘れられない…」
「謝る事じゃない。大切にしなさい。そんな大切な人に会うことも出来ない人だっているんだから」
そう言って、叔父さんは微笑んだ。
私は大きく頷いて微笑んだ。久しぶりに本当に心から笑えた気がした。
「ありがとう」
「一つ教えてあげるよ。彼は約束を忘れてないそうだ」
「約束…」
私は、彼らしいなと思い嬉しくなった。最後まで優しい彼だった。
マンションにつくと、全てが夢なんじゃないかと思った。
それでも良かった。ただ、私の中に彼の思い出は全て戻っていた。
空になった金魚鉢に目をやると、そこには赤い小さな金魚が泳いでいた。
私は、これが彼の『約束』の答えな気がした。
まだ、傷は治らない。ただ、彼を忘れようとは思わない。
忘れたい想い程、どうして忘れられずに心に残るのだろう。
忘れるべき想いではないからなのだろう。
私は、共に生きていく。
それが私の『約束』の答えだから。

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