野ねずみ父さんは出勤後さっそく上司に労災を申請しようとしましたが、野ねずみ父さんの上司の針ねずみさんは言いました。
「それは君、熱中症でもないのに、それは無茶ってものだろう」
嗚呼、やっぱりな…と思いながらも野ねずみ父さんはかそけき家計のためにわずかな希望を込めて上司の針ねずみさんに食い下がります。
「けど私は出勤するときに屋根の部品が落ちてきて下敷きにされたんですよ?」
なるべく哀れっぽくわずかに批難を口調に込めて野ねずみ父さんは言いました。
けれど上司の針ねずみさんの答えはにべもありません。
「それは家の中での出来事かね、それとも家の外での出来事かね。
尻尾の先まで全て家から出ていたと君は断言できるのかね?」
とまで言われてしまうと別に嘘かどうか分かるわけもないのに、言い張ることが野ねずみ父さんにはできませんでした。
「いえ…、尻尾まではわかりません」
「では仕方がないな。
さあもう仕事に着いてくれ」
すっかり意気消沈した野ねずみ父さんは、すごすごと自分の持ち場に向かいます。その背中は心なしか丸まって柔らかな毛並みがフカフカと秋枯れの野原のように、かすかにそよいでいるようです。決して鮫の背鰭がはえているわけではありません。
以下、野ねずみ父さんの心の叫び
:仕事をするか!小さな挫折のその直後に
それでもやらにゃあ、にゃらんのさ
ああ、それでもおまえは人間か?いいや野ねずみだ…
気にするな俺!さあ、衣装を着けろ!その暗い顔に白粉を塗れ!おまえはパグリアッチョなんだ!
そう、ガスパッチョではなくパグリアッチョさ!
サクッと衣装をつけろ!レチノールじゃないぞ!ビタミンなら充分足りているとも、代謝障害怖くにゃい!
でもうちのコロンビーナがアルレッキーノの欲しがるような美ねずみでなくてよかった…!
以上、野ねずみ父さんの心の叫びでした。
支離滅裂ではありますが、これは彼一級のゆーもあで、こうしてストレスを処理しているのです。
彼の脳内はほぼ脳幹や小脳しかないながらもニューロンスパークでスッキリ爽快になりました。
白粉ではありませんが家の塗装のクリームと頬紅のような苺果汁がべったり着いた顔を洗い流して野ねずみ父さんは自分の席に着きます。