学校が今日から始まった。
僕が通っている高校は、男女共学であまり治安もいいとは言えない所だ。自宅からは、徒歩で約10分と割と近い場所にある。周囲は森に囲まれており、学校の裏には深い森が広がっている。
僕の右手の小指に収められた指輪は、極力学校では隠すようにした。女性がはめるような指輪を身につけていると知れたら、変な風に思われるだろう。アイリとの会話は念話のみにすることにした。
授業をすべて終えて、僕はこれから帰宅の準備をしていた。
「やっとこれで帰れる」
僕は、自分の椅子に座りながら背伸びをしながら言った。
「相坂、俺この後すぐバイトだから先帰るわ」
僕の後ろの席で帰る準備をしながら長谷川が言った。
彼の名前は長谷川賢士(はせがわさとし)。中学の頃の部活で知り合った気の合う友人である。髪は茶髪で耳にはピアスの無数の穴が目立つ。あまり人を寄せ付けない雰囲気を放っているが、悪い奴ではない。
「バイトか、御苦労様だね」
「まあな。生活のためだ」
長谷川の家庭は、両親が幼少の頃に事故で亡くなった。その後長谷川兄弟は親戚の家で育てられることになったが、今はある事情で別のアパートで2人で暮らしている。バイトは、生活費を稼ぐためのものであった。
急に、廊下から男の声が響いてきた。
「ゆ、許してください!」
教室に残っていた学生は、その声に反応にし、廊下の方を凝視した。僕は、急いで廊下へ向かった。
廊下では、4人のガラの悪そうな学生に対し、色白の学生が床に土下座をしていた。
「あまり、見ない方がいいぞ」
長谷川が、僕の後ろから小声で言った。
「あれは、何やってんだ?」
「知らないのか? 佐々木とかいうDクラスの奴が最近後輩に金を巻き上げられていることを」
「いや、全然わからない。」
「わからないのも仕方がないか。今までは、影でやってたみたいだけど、最近、金の巻き上げが激しくなったんだよ。夏休み中もやってたらしいぞ」
「長谷川はどうしてそんなに詳しいんだ?」
「後輩の情報だよ」
「なるほど」
長谷川は、様々な後輩との交流もあり、いろいろな情報を知っていた。
「お前ら! 何やってんだ!」
教員が、異変に気がついたのかこちらへやって来た。