あんまり秋刀魚さんが感情的なので野ねずみ父さんもタジタジとしながら、なだめようとします。
「ま、まあまあ、秋刀魚さん、落ち着いて…。
誰でも自分以外の都合や事情の深刻さにはなかなか気づけないものです」
「分からないからって、他者を傷付けて平気でいても良いって先生は思っていらっしゃるんですか?!」
秋刀魚さんはキッと顔を上げると野ねずみ父さんを恨めしげに睨みつけましたが、平坦で真ん丸な目なのであまり怖くはありません。
「いいえ、そのようなことは決して思いません。
ただ、秋刀魚さんが誰かの心ない言葉にお心を痛めておいでなのが残念でならないのです。
自分のことを分からない相手はつまり自分とは関係ないのですから、まともに相手にする必要は無いのだと、こう考えてみてはいかがでしょうか」
「…それでも何も知らない者に軽々しい気持ちで侮蔑されるのは我慢なりません。」
「他者を侮蔑するような者は大概深く考えてはいないものです」
「…それは、そうかもしれません…
けど一言くらいは言い返したいものです。生き物が耐えられないほどの気候の変化は僕らのせいじゃないって。」
「その点については全くもってその通りだと私も思います。」
悲痛な面持ちで野ねずみ父さんも秋刀魚さんも黙ってしまいました。
しばらくして、長い息を吐き出すと秋刀魚さんは顔を上げて言いました。
「先生、今日は先生にお話を聞いていただけて気持ちがスッキリしました。ありがとうございます。」
気を取り直した秋刀魚さんは金魚鉢の中で野ねずみ父さんに向かって頭を下げるとはにかんだようにニコっと笑いました。
感情をあらわに声に出して怒りをぶちまけたのが良かったようです。
野ねずみ父さんも秋刀魚さんが回復したようなのでホッとして笑顔になって言いました。
「いえ、秋刀魚さんが元気になられて良かったです。
お話になりたいことがあったら、またいつでもいらしてください」
秋刀魚さんはもう一度頭を下げると海へ帰って行きました。