「結局その本の存在に気づいたのは、孝子様お一人のようでしたね」
「あの様子だと、そうみたいね。
あら、少し話が脱線しちゃったみたい。
さっきの続きに戻しましょうね。
私はプロブレムを解いて、権利書の大体の場所は分かった。
でも、喜久雄兄さん達の見張りが続いている限り、何も出来ない。
そんな時、深雪姉さんが鎧の分解を始めた。
そしてまた、残りの全員が見学してくれた。
鹿島さんも含めてね。
もちろん鎧はホールにあるから、まだ権利書を取り出す事は出来ない。
だから、その間に雅則兄さんの部屋に行って、権利書と入れ代わりに入れておくワープロ文を作っておいたの。
それからホールに降りて行くと、貴方が一人で鎧を組み立てようと悪戦苦闘していたの。
私はホールの床を調べて、あの小さいクイーンを収めるべきくぼみを発見したのよ」
「そうか、あのコンタクトレンズの時か…」
「私の視力は両目とも1・2よ。
乱視もなし。
だから眼鏡もコンタクトも持ってないわ」
「なんという嘘つき娘だ」
押し殺した声で言い、鹿島がまた一歩近付いた。
「あら、嘘つきはお互い様でしょ」
そう言って、孝子がまた一歩下がる。
「私が嘘を?
いったい、いつ?」
「そうやって、どこまでとぼけ切れるかしら?
でもいいわ。
だってこれは、二人だけのポーカーですからね。
最後までカードを伏せてゲームを続けましょ。
とにかく私は床を調べて、権利書のありかを確認した。
あとはそれを取り出すチャンスを待つだけ。
そして例の風見鶏騒動が起こった。
鹿島さんは喜久雄兄さん達と三階に行き、明彦兄さんと深雪姉さんは庭に出た。
牧野さん達まで庭に行ったわ。
私はワープロ文とスマイル君を持ってホールに降りて行った。
そして白のクイーンで床を開け、権利書を手に入れた。
代わりにワープロ文とスマイル君を入れておいたの。
これで白のクイーンはもう必要ないから、シャトー・ムートンのボトルに戻して、コルクをして、地下の元あった場所に戻しておいたの。
でも、地下から上がってきたら、ちょうど明彦兄さん達が庭から帰ってくる声が聞こえて、私はこの時まだ権利書を手に持っていたから、それをとっさに鎧の中に隠したのよ」