「あの鎧の中に?」
「そうよ。
あの鎧は一度分解されたのを全員が見てるから、二度と探す事はないと思ったの。
それに鹿島さんを手伝って鎧を組み立てたから、構造も分かってたし、あの時は一時しのぎに隠すには絶好と思ったんだけど…
でもそのあと取り出すチャンスがなかったのよね。
結局、鎧の中に入れっぱなしで、ここを離れる事になっちゃって。
それを今、取りに戻ったのよ、ここに」
「あの雅則様の笑顔の作り物を、いったいどこから持ってきたんですか?
どこかひとつでも無くなっていれば、すぐに分かるはずだ…
そうか、自分の部屋のだな」
「残念でした。
それじゃゲームには勝てないわよ、鹿島さん。
誰かが私の部屋を、突然訪れるかもしれないじゃない。
実際、鹿島さんも来たし、深雪姉さんも来た。
その時にあれが無かったら、ちょっと変じゃない。
だからね、あのホールの床の中に入れたスマイル君はね、誰も出入りしない二階の五号室のを、ちょっと拝借したのよ。
あの部屋は空部屋だから」
「油断も隙もないな」
「さぁ、これで私の話はお仕舞い。
特に問題はないでしょ?」
「いや、まだ問題は残っています。
どうして有効期限の切れた相続書を、大事に持っているのですか?
それは今では紙切れ同然の価値しかないのですよ。
さぁ、それをこっちに渡しなさい」
「鹿島さんこそ、どうしてこれを欲しがるの?
ただの紙切れなんでしょ。
メモ用紙にでも使うの?」
「私は弁護士としての立場上、それを破棄しなくてはならないからですよ。
早く渡しなさい!」
「このゲームも、そろそろ終盤にきたわね」孝子は笑顔を崩さずに、そう言った。