「いったい何を根拠にそんなデタラメを…
あのテープをいつ制作したのかは知りません。
しかし、私は雅則様が指定された日に、皆様にお集まり願ったのです」
「では、一応確認しておくわよ。
もしあのテープを制作したのが仮に半年前なら、私達が集まった日から逆算して、大体十月二十日頃ということになるわよね」
「そういう事になりますね」
「それじゃ、最後のカードを開くわよ。
これが私の切り札よ。
あの最初のテープの中で、兄さんはワインを飲んでいたわよね。
再会の乾杯と言って、私達のグラスにも同じワインが注がれたわ。
覚えているでしょ。
そして画面の中で、兄さんはワインのラベルを見ながら、こう言っているはずよ。
『今年のヌーボーは出来がいい』
って。
鹿島さんはワインの知識がないのよね。
地下室を案内してくれた時に、確かそう言っていたわ。
私もワインの知識はなかった。
でも、宝探しをしている間に、ついでにヌーボーのことも調べてみたの。
あのワインは
『ボジョレー・ヌーボー』
といってね、フランスのボジョレー地方の産なのよ。
『ヌーボー』っていうのはね、新酒のことよ。
つまり、その年にボジョレー地方で出来た赤ワインを『ボジョレー・ヌーボー』っていうのよ。
そしてこの『ボジョレー・ヌーボー』には解禁日があるのよ。
それは十一月の第三木曜日。
解禁日直前にフランスから空輸してきて、そして店頭に並ぶのは十一月の第三木曜日って決まってるの。
この解禁日は日本だけではなくて、本国フランスでもアメリカでも同じよ。
去年の十一月の第三木曜日は十一月十六日。
兄さんはテープの中で、
『今年のヌーボー』
って言ってたわよ。
あのテープにあのワインが映っているからには、あのテープを十一月十六日以前に制作する事は不可能なのよ。
それ以前にあのワインを入手することは出来ないからよ。
つまりあのテープは、十一月十六日以後に作られた物よ。
さぁ、指を折って数えてごらんなさい！
十一月十六日以後に作られたテープの中で、雅則兄さんは
『今日から数えて、ちょうど半年後』
と言ったのよ。
それがいつになるのかを、数えてごらんなさいよ！」
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