欲望という名のゲーム?130

矢口 沙緒  2010-09-12投稿
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二人の間に小さな沈黙があった。
そして、鹿島がゆっくりと口を開いた。
「なるほど、私はミスをしたわけですね。
…しかし、恐れ入った。
孝子様の類い希な頭脳に、敬意を表しておきましょう。
確かにあなたのおっしゃる通りです。
雅則様が指定なさったのは、五月の二十日です。
テープに細工をしたのも私です」
「私達兄弟を五枚のカードとするなら、貴方はジョーカーだったのよ。
それに気付いたから、私はなおさら宝探しに興味のないフリをしたの」
「私もミスを犯しましたが、しかし孝子様も最後になってミスをなさいましたね」
そう言って、鹿島はまた一歩近付いて来た。
孝子は無言で一歩下がる。
「ここには私と孝子様の二人きりです。
孝子様はニ百八十億円の本当の価値をご存じないようですね。
だが、深雪様は知っていらっしゃいましたよ。
ニ百八十億円は、悪魔に魂を売る時の金額なのですよ。
そして、人間から理性を失わせる金額なのですよ。
さぁ、それをこっちに渡しなさい」
決して大声を出さず、押し殺した声でいうのが、余計に不気味だった。
鹿島がまた一歩近寄って来た。
孝子がもう一歩下がった。
そして、背中が壁に当たった。
「もう、あとがないようですね。
さぁ、それを渡しなさい。
それとも…
あなたの大好きな雅則兄さんに、会わせて差し上げましょうか?」
そう言って、鹿島が最後の一歩を詰めようとした時、急に孝子が泣き出しそうなほど哀しい表情をした。
その目が、哀れなものを見るように鹿島を見た。
それが、鹿島と向かい合ってからずっと、彼女がポーカーフェイスの下に隠し続けていた顔だった。
「まだ分からないの、鹿島さん」
孝子は嘆くように言った。
「ゲームは終わったのよ」
そう言って孝子は鹿島に一歩近付いていき、四枚の封筒を彼に渡した。
「貴方、負けたのよ」
鹿島は受け取った封筒を見た。
そして、驚きの表情で孝子を見た。
「カラ…
なんですね、全部」
孝子が小さくうなづいた。
四枚の封筒は、確かに封を切ってはいなかった。
ただ、裏にカッターナイフの切れ目があった。
孝子は最後まで封筒の裏を見せずにいた。
最後の最後まで、カードを伏せていたのだ。


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