08.お墓
誰にあげる花束だろう。
病院にお見舞い行くとか?
でもこっちは病院のある方向じゃない。
聞こうと思ったけど、聞きにくい雰囲気が漂っていた。
お母さんは黙ったまま、ゆっくりとしたペースで歩いている。
私は何も聞かないでおこうと決めた。
*
歩き始めて10分して見知らぬ墓地に着いた。
お母さんはお墓とお墓の細い道を奥へと進んでいく。
そして奥から3番目のお墓の前で止まった。
吉澤家之墓。そう刻まれていた。
「……吉澤?」
アオトと同じ名字だ。
「角田さん?」
遠くからそんな声が聞こえた。
声が聞こえた方を見ると、そこには40代くらいの女の人が立っていた。
「もしかして……リクちゃん?」
「あ、はい」
何で私の名前知ってるんだろう。
私が疑問に思ってると、お母さんが私の隣に来て小さく頭を下げた。
「娘にちゃんと話そうと思って来ました」
「そう。そうね。今が丁度いいかもしれないわね」
それって、どういうこと?
何が何だかさっぱり分からない。
「角田さん、私が話してもいいかしら?」
女の人が静かに言うと、お母さんはお願いしますと頭を下げた。
「リクちゃんの高校の近くにある公園、分かる?」
私は頷いた。
帰り道に通る土手のところにある公園。
アオトと初めて会った場所。
「私、家の近くの公園に馴染めなくて……」
公園にいる子どもたちのお母さんたちとの付き合いがってことかな。
「だからその公園に行って、うちの子を遊ばせてたの」
「お母さんも吉澤さんと同じだったわ」
お母さんがそう言うと、女の人───吉澤さんは薄く笑った。
「その公園でうちの子とリクちゃんが初めて会った時、うちの子が喜んで遊んでる姿は今でも覚えているわ。そこで私たちも意気投合してね」
言い終えると、吉澤さんの表情が明るいものから暗いものへと変わった。
「でも、あの子は事故にあって……」
そこまで言うと、吉澤さんは持ってたハンカチで目元を押さえる。
その言葉を聞いたとき、私の古い記憶がぼんやりと思い出されるような感じがした。