ジーナは少し黙した後、暗い表情でラドラスを見た。
「……まず、お前についてだ。お前はなぜこれほど自由に動ける?勝手に私を助けて部屋に運んだことはもちろん、そもそもボールを持っているところからおかしいだろう。あのボールはとてつもなく強力だ。恐らく武器にすらなりうる。囚人が持って許されるような代物ではない。……囚人、というのも、怪しいものだな。治安部隊の奴らでさえ、どこかお前を避けているように見えた。」
一気に話したジーナは、震えるように息を吸い込むと、話の核心に迫った。
「それに、お前は支配者のことを『舞子様』と呼んだ。とても、誇らしげに。――お前が忠誠を誓っているのは、一体誰だ?私達の領域におられる西国ミルトの王、アバンド様ではないのか!」
だんだんと大きくなり、やがては叩きつけるようになった声に、王子は思わず片耳を塞いだが、ラドラスは動じなかった。
「……相変わらず王一筋か。忠実な奴だねぇ。」
「話を逸らすな!」
ラドラスは歯を食いしばるジーナを、冷めた目で眺めた。
それから、フッ、と笑って息を吐くと、やれやれといった様子で髪をかきあげ、下から見上げるようにジーナを見る。
「察しの良さは認めてやるよ。そうだ、俺は今、舞子様と覇王様の計画に加担している。」
王子の体が強張り、顔中に驚きの色が広がった。無理もない。助けてくれた相手を疑うほど、彼の心は荒んでいない。
「それも、自らの意志でな。」
そう続けたラドラスの顔は、自信に満ちていた。自分が間違ったことをしているとは、微塵にも思っていない顔だった。
ジーナはぐっと拳を握る。悪い予感の的中に、吐き気にも似た気分の悪さを覚えたが、しかし、そんなことに屈するほどジーナはか弱くはなかった。
「その計画とやらを、聞かせてもらおうか。」
威圧するように言ったつもりだったが、ラドラスの態度は奇妙にさばけていた。
「ああ、いいぜ。」
あっさりと答えたラドラスに、王子は疑問の声をぶつける。
「いいの?……さっき話したから、知ってるだろうけど、僕達は支配者達に対して反逆を企てているんだよ?」
「いいさ。知ったところで、どうせ何もできないだろうしな。」
ラドラスから少し距離を置いた王子と、挑発を受けて顔を歪めたジーナを面白がるように見やりながら、ラドラスは話し出した。