「私があの時もう少し遊ばせていれば、あんなことにはならなかったかもしれないのに……」
「角田さん、あなたのせいじゃないわ。私が止めていればよかったのよ」
お母さんと吉澤さんは、涙声になりながら言う。
私は2人の嗚咽まじりの声を聞きながら、お墓に目をやった。
───『お名前、何て言うの?』
その子の名前は何だったかな。
───『吉澤───だよ』
「リク。お母さん、吉澤さんの家に行くけど、リクも行く?」
「……ううん。もう少しここにいる」
「そう。じゃあ、遅くならないうちに帰ってきなさいね」
お母さんと吉澤さんはお墓から離れていく。
「あ、あのっ!」
2人は立ち止まって同時に振り向いた。
「吉澤さん。その子の名前って……」
「空人」
「え?」
「空に人って書いて、アオト」
空人?
そんな……
嘘、でしょ?
私は愕然としてその場に立ち尽くす。
アオトが死んでいた?
じゃあ、今までのアオトは何?
優しく笑いかけてくれて、抱きしめてくれた、アオトは何?
───『吉澤空人だよ』
はっきり思い出した。
こんなの嘘であってほしい。
夢であってほしい。
「……アオト」
アオトに会いたい。
その時誰かの足音がした。
私は弾かれたようにその方向を向く。
「アオト……」
アオトは何も言わずに無表情でこっちに歩いてくる。
私の隣に来ると、アオトはお墓と向かい合ってお墓をじっと見つめた。
「ねえ、アオト───」
私は聞かずにはいられなくて口を開いた。
でも最後まで言えなかった。
だって、アオトは今にも泣き出しそうに顔を歪めていたから。
「これ、俺の墓なんだ」
「え……」
聞きたくない言葉だった。
「信じられないよね。俺、死んでるのにここにいるって」
俺の墓。死んでる。
アオト。聞きたくなかったよ、そんな言葉。
今からでも遅くないから、嘘っていって?
夢って言ってよ。
「こんなの、信じられないよね」
嘘だって、夢だって言ってくれない。