が、甘かった。
私はこの日、彼の暗黒面を知ってしまったのだ。
恐らく、彼も隠したがっていた、暗黒面…
凶暴な、もうひとりの彼を。
「アルファ…?」
「違う」
「…えっ…?」
彼は、髪を振り乱しながら恐ろしい形相で振り向いた。
「違う!!…俺は…俺は…」
「どうしたの?…何が違うの…?」
「アルファなんかじゃ…」
その時は、意味が分からなかった。
彼は私の口を塞ぐと、私を草の上に押し倒した。
「!?」
「なあソフィア…ここで何が起こっても…知っているのは俺達だけだ…そうだろ?」
「!!」
彼の言わんとする事はすぐにわかった。
そして、分からなくなった。
私は、何の為にこの人と…
だが、彼はあっさりと手を放した。
「冗談だ」
「・・・。」
冗談、で済むような話ではない。
「…ねえ、どうして?」
私は体を起こしながら訊いた。
「焦ってるのは分かるけど、少し落ち着いたほうが…」
「お前に何が分かる!?」
彼はそう叫んだ。
ドキッとした。
確かに、私は彼の事を何も知らない。
いきなり核心をつかれたような、そんな気がした。
「確かに…私は何も知らない…けど…」
「けど?」
「・・・。」
「そう…だよな。」
彼の目が急に優しくなったようだ。
「分かんないんだ。俺も…俺のこと。突然、取り返しのつかないような行動、取ったりしてさ」
「その傷痕も?」
「…いや?…これは、別」
「・・・。」
「…ごめん。冗談じゃ済まないよな、こんな事」
「そうよ、全くもう」
彼はただ項垂れ(うなだれ)ているだけだった。
彼が自分の過去や境遇を語りだしたのは、それからすぐの事だった。