3月、久しぶりに由美と再会した義人は、由美の表情が曇っていることに気づいた。
「どうしたの?」
「うん…あのね。やっぱり店閉めることになったんだ。…頑張ってきたけど。やっぱり、両親の体のこともあるし、私、スーパーで、アルバイトすることになったの…」
「そうか…でも大変だね」
「うん…。だから両親には、しばらく休んでもらうと思う」
「そうか…残念だよね。あの店の味を目当てに来てた人もいるしね。…俺もファンの1人だし、この地に来る度に、食べにきて、由美ちゃんの笑顔を見にきてたからね…」
「うん…ごめんね。…でも、今まで休みなかなか取れなかったから、これで少しは自分の時間は出来ると思うんだ。」
「そうだね…でも無理しないでね。いろいろと大変だと思うけど、何かあったら俺や哲を頼ってくれよ。…こうして由美ちゃんと出会えたこと…俺は運命に感謝してるから…」
「それは私もだよ。あの時、なぜか義人さん達と出会って、義人さんが、偶然、私の実家の店に来て…義人さん、この数年間、ずっと励まし続けてくれて。嬉しいよ」
2人は、お互いに、あと一歩が言い出せないでいた。
義人には、りおと会う機会が減り、視野が一つ減ってしまったこと…そして、由美に対して、もう少し踏み込んだことが言えない自分…
(変わってね〜な。俺は…誰にでも優しすぎるのかな。…いや勇気がないだけか…情けない)
「東京に…」
「え?」
「前に、東京ってゆうか、関東に住んでみたいって言ったことあるよね?両親と一緒に」
「え?うん…」
「住み慣れた、この地を離れるのは、簡単なことじゃないけど…そうなったら嬉しいかな…って何言ってるんだろ俺…」
義人は、言って後悔した。
今、由美の置かれてる立場を考えもせずに、中途半端な自分が、そう言ってしまったことに…
だが、由美は義人の気持ちを察した。
「うん…考えてみるよ。義人さん…なんか、この先進展があればいいね」
「うん…俺もそう思うよ」
義人は、由美に改めて感謝した。
思えば、広い意味で、出会いを求めていた自分が、哲彦と剛夫を巻き込んで、ここまできた。
恋愛的なことは、期待してなかった。
…でも、りおや、かすみ、由美と出会って、いつのまにか自分の心の闇は、晴れていた。
「明日…かすみさんと、どんな話が出来るだろう?」