09.別れ
するとアオトは私の手を取って、私の手を自分の胸にあてた。
私は思わずアオトの顔を見る。
アオトの手は氷みたいに冷たくて、アオトの心臓の鼓動は私の手に伝わってこない。
信じざるを得ない。
「ごめんね。本当は言わないでおこうと思ってたんだ」
そう言うとアオトは私の手をはなして、また悲しげな顔をした。
「俺のこと、怖い? 幽霊だしさ、俺」
私は首を横に振った。
不思議なくらい、全然怖くない。
それはきっとアオトだからだと思う。
「そっか」
アオトはそう呟くと、薄く笑ってお墓の前にしゃがんだ。
「母さんの言ってること、全部本当だよ。リクともっと遊びたくて追いかけたんだ」
「……」
「死んだあと、どーしてもリクに会いたくて、時間かかったけどこうして会いに来た。もっとリクと話したかったし、伝えたいことあったしさ」
───『俺じゃダメかな?』
「でもいっぱい話せたし、伝えること伝えれた。だからもう思い残すことはない」
ちょっと待って。
思い残すことはないって何?
まるで、もう会えなくなるみたいな感じ。
「今日太陽が沈んだら、俺はあっちに戻る」
「え?」
あっちって、天国のこと?
じゃあ、もう会えないの?
例えアオトが幽霊でも、それは嫌だよ。
夕日は沈みかけていて、そのせいかアオトの体からは淡い光を放つ粒子が舞っている。
ちゃんと、あの時の返事をしなきゃ。
「アオト、こっち!」
私はアオトの手をつかんで走った。
アオトに見てほしいものがあるんだ。
*
長い階段を止まることなく駆け上がる。
ふと横を見ると、太陽は半分くらい沈みかかっていた。
早早くしないと、アオトが消えちゃう。
私はアオトの冷たい手を強く握った。
しばらくして、やっと階段を登り終える。
私がアオトに見てほしかったもの。
それはこの高台からみえる街の景色。
「眺めいいでしょ」
「うん。そーだね」
アオトは高台から見える景色を目に焼き付けるように眺めている。
私はそんなアオトの顔を見たあと、1度はなしたアオトの手を握った。
「……いかないで、アオト」
握っているアオトの手を、ありったけの力で握る。