仰心

leaf→leaves  2006-09-02投稿
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小さな家だけど僕はそこに住んでいた。広い意味で借家だった。家の管理主が戻って来ると、慌てて近くの家の影に隠れて一晩を過ごす。寒い日や暑い日、関係なく夜は外で暮らしていた。
こんな窮屈な生活を強いられたのは理由がある。お金の問題だった。金貸しとの関わりは地獄しか生み出さなかった。毎朝、毎晩ドアの向こうで騒ぎ立てるバイトのチンピラ。サラリーマンみたいな恰好をして話合いはただ冷酷な脅迫。結局逃げせずにいられなくなり、海沿いの町から山沿いの村に行った。潮の匂いが、あの時の安易な決断により、蝉の音に変わった。
ある日、拝借家の隣に住むおばさんが―まだいたのかい―いつものように軽くお叱りを受けた。隣家には畑と裏山があり、おばさんは畑仕事を済ませると山へ出掛けていった。おばさんが去ってから、家の持ち主が戻ってきた。バレたと思い、目を閉じた。けれど何も言わなかった。そっと目を開けると、その理由が判った。管理主がくわえていたのは僕のご主人の腕だった。間もなく、管理主が掘り返した穴をおばさんが見て、山から悲鳴が聞こえてきた。気がついた時には、赤いランプが回って、蝉の音は腐敗臭に変わっていた。

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