「俺が養子なんだって事は、前に言ったよな?」
覇気のない質問に、私は頷いた。
この国の警察のトップ、ドーランド長官。
アルファが彼の養子だと知った時は、心底驚いたものだった。
「その前は孤児院で暮らしてた。そのまた前の事は、誰も、何も知らない」
「・・・。」
彼のことだ、もう何を言われても驚くまいと思っていたのに、返ってきた答は至って順当で、何だか拍子抜けした。
が、話はまだ終わらなかった。
「…俺以外は。」
彼の何かがその言葉に隠されているような気がして、私は思わず訊いていた。
「あなたは、知っているの?」
思い出したくもない。
以前彼の過去について訊いた時、確かに彼はそう言ったはずだった。
思い出したくもない。…はずなのに、
「…聞いてくれるのか?」
むしろ聞きたかった。
「俺は、隣の国のすごく貧しい家に産まれたんだ。藁の屋根を見上げて、直に地面に寝てた記憶がある」
彼は物心つく頃には、鉄鉱で働かされていたという。少しでも仕事が遅れると、鞭で打たれた。
「この頬の傷も、そうなんだ。多分一番新しい物だったんじゃないかな。他の傷はあまり目立たなくなったけど、まだこんなはっきりと残ってる」
その頃は知らないうちに暴力を振るっては新しい傷を付けられていた。両親の顔は覚えていないという。だが何でも両親は、自分の息子のの雇用主にいつも媚びていたそうだ。
真っ暗な鉄鉱の仕事は、辛いだけではなく、とても危険だ。大勢いた彼の兄弟が全て死に絶えた後、政府の役人によって、彼は救われた。
「で、俺を誰が育てるのか問題になって…親は確か手術を受けるだか裁判を受けるだかで、結局俺は孤児院で暮らすことになったんだ。親とは、それきりだけどな」
そしてドーランドに拾われ、英才教育を叩きこまれてきたという。彼が自信の行動を全て把握できはじめたのは、この頃だったそうだ。
ドーランドはいつも彼を支配する冷血な男として、彼の前に立ち塞がった。リーナも相手にしてくれず、彼は孤独だった。
「こんな人生、やめてやろうかと思ってた。そんな時、俺はドーランドの不正を知ったんだ」