『全てブロッケン……
この男、オーヴで闘い慣れしている』
背後からの殺気に振り返り、身構えるノア。
今の攻撃で大量のオーヴを消耗したノアに、死闘をささえるだけのオーヴを再放出する、時間的余裕はなかった。
僅かなオーヴで段蔵の猛攻を防げるのか、彼女の心に一抹の不安がよぎる。
だが、段蔵の攻撃がノアに仕掛けられることはなかった。
彼女の視線の先、双刀の刃は半次郎の剣によって阻まれていたのだ。
火花をちらす三つの白刃。
この攻防を制したのは、渾身の力をこめて振り払らわれた半次郎の一撃であった。
「いったはずです、貴方の相手は私がすると」
淡々と、そして何処か悲しげに語った半次郎。
身体ごと刀を弾き飛ばされた段蔵は、その半次郎を刮目していた。
歯牙にもかけていなかった相手が、自分の動きに対応してきたことに驚きを隠せなかったのだ。
そしてそれは、ノアも同じであった。
段蔵の体駆速度はノアと同域にあり、半次郎がついてこれる動きではなかった。
それを可能にするには段蔵の動きを先読みするより手はなく、それは彼女自身が見抜けなかったイリュージョンを看破したことを意味するのである。
そのイリュージョンを看破した手段が、ノアには皆目見当がつかなかったのだ。
その手段にいち早く気付いた段蔵は、ノアよりも客観的に半次郎を見ていたといえる。
「…クリスタル・アイズ、“水晶眼”が使えるのか、お前?」
段蔵のはっした言葉に、ノアは耳を疑った。
“皇帝の眼”とも呼ばれるこの能力には、あらゆる事象の真実、理を見極める力があった。
それゆえにこれを有する者は、先んじて人を制することができる。
戦場にあっては的確に機をとらえ、自軍に勝利を呼び込み、政にあっては民衆を正しき道に導き、国に安寧をもたらす。
正に皇帝が持つべき先覚の能力といえた。