第十九話 スケット
「さて、まずは?驚いた?の一言でも言っておこうかね」
渡沼がスタジオにたった二人しかしない京都と雪野に向かってゆっくり語るように言った。
「「よく言ってくれる!こんな騒動にした張本人が」」
京都と雪野は取って食うようかのように怒りを深く沈めて冷静を保ちながら言った。
十分前、京都と雪野が待つスタジオに渡沼が来たところだった。渡沼は京都達の要求どおりに一人でスタジオまでやって来た。
渡沼が局内に入った時点で京都がドアのカギを開けて渡沼が入れるように仕向けた。
バタンと盛大に渡沼がドアを開けると
「ようこそ。愛知県警視総監殿」
京都は皮肉をたっぷりとこめてドアを開けた渡沼に向かっていって渡沼をスタジオの中心に誘導した。中央まで向かうと女子アナウンサーと旬と警備員は渡沼の後ろに隠れるように逃げた。
そんな三人を見下すように見た渡沼は「ふ〜」と、深いため息をついて
「さぁ。私は要求どおりに一人でここまで来た。君たちが私をここまで来させた理由は何かあるんだろ?君らの要求どおりにするからこの人質三人を解放してくれないか?あぁ、なんなら人質を解放したとたんに警官が来ない様に私がTV越しに命令しようじゃないか」
そういうと渡沼はテレビカメラに向かって
「愛知TVの外で待機している警官に命令する。人質が局内から出たら速やかに保護し、私が局内から出るまで何が起きてもその場で待機すること」
と、はっきりと宣言すると京都と雪野は互いの目を見て
「分かったわ。警視総監殿の後ろにいる人質は解放していいわ。さっさとこのスタジオから出なさい」
雪野は、構えていたライフルの銃口を旬達からそらした。
旬は、企画外の展開になって「なっ!?」と、動揺したが渡沼がギラリと旬をにらんだので、慌てて
「なっ!そんな事をしたら警視総監!あなたが殺されます!」
と、とっさにアドリブを聞かせると睨んだ渡沼はフッと笑って
「大丈夫。警視総監として、警察の代表として君たち一般人を守るのが私の仕事だ。私の命など二の次さ」
と、旬に微笑みかけて旬の肩にポンと手を置いた。一見正義感のあふれる人のように見えるが、目が完全に笑っていなかった。