「不正を…?」
ああ、と彼は頷いた。
ドーランドは、これまでに何度も、金を積まれては無実の罪を着せていたという。
殺人事件までもだ。
「俺は証拠を集めたかった。大頭領暗殺があった当日、俺にアリバイが無かったのは、大頭領の暗殺予告をしていたある組織に単独で潜入しようと思っていたんだ。…それが、こんな事になるなんて」
自分と母を見捨てられたリーナも、ドーランドを恨んでいた。彼女は相変わらずアルファを全く信用していないようだった。が、ドーランドを刑務所に送りたいと聞くと、喜んで協力したそうだ。
「そして、手配される前にどうにか情報を集めた。今はリーナが持ってるはずだ」
「それが…」
「…そう。俺の言う、最終兵器」
成る程、確かに、そんな物を公開されては、ドーランドに未来はない。
「…でも、どうして、そこまで…」
「…さあな」
彼の悲しげな目が、これ以上は訊かないでくれ、と語っていた。
だから、私も黙っていた。…が、何だか、アルファよりもドーランドがずっと恐ろしく感じられた。表向きはどんな優しげな顔をしていても、誰もが凶暴な一面を秘めてる。そう思えた。
「そうだ。あなたの本当の名前って…」
ザクッ、ザクッ。
また、嫌な音だ。
今度の足音も、また一つではない。
暖かい手が、私の頭に載った。
「あと十日したら、教えてやるよ」
彼はまた、戦うために、前へ進んでいった。