『カズヒロのことは私好き。サユとはそういう関係じゃないって信じてるから…。』
「アキ…。」
カズヒロは、許してくれたんだと思い、アキを抱きしめようとした。
しかし、アキに嫌がられた。
「なんで…。」
『でもねカズヒロ…。』
アキの表情が、どんどん強ばっていく。
『私の心に付けた傷は、大きくて深いの。』
「…。」
言葉にできないカズヒロ。『私たち…少し距離を置こう。』
「アキ…落ち着いて。」
『落ち着いてる。しっかり考えてる。私の心の傷が癒えるまで、少し距離を置こう。』
アキは、
『今までありがとう…。』何とか作った笑顔で最後に伝えた。
アキの笑顔は、少しずつ闇に消えていった。
「そんなの出来るかよ…。」
「そんなの出来るかよアキ!」
カズヒロはアキに向かって叫んだ。
聞こえないのに。
「俺は出来ねぇぞ!」
カズヒロが叫んでいるのも知らず、アキはコテージへと戻っていった。
その光景を見たヒロとユウタは、アキの後を追った。
コテージで1人泣いていたアキ。誰にも見られたくない光景だった。
あの時の悔しさと、怒りと、つらさが入り交じった、何とも言えない気持ちで涙があふれた。
その時、扉を誰かが叩く気配がした。
アキは、渋々扉を開けた。『ヒロ…ユウタ。』
「ちょっといいかな。」
「…アキちゃんは、カズヒロに対してどう思ってる?」
ヒロの質問。アキは黙ってしまった。
「おい。今そういう事聞くなって…。」
するとアキが、ノートを取り出して、
『ヒロもユウタも、結局私の心情を片っ端から聞きたいだけなんだね。』
と書いた。
「アキちゃん。違うんだよ。」
ユウタが必死にフォローしても、
『違うわけないじゃない!ヒロの最初の質問がそれだもん。もし私に対して心配していたら、そんなこと言うはず無いよ。』
「ヒロがそんな事言うから…。」
ユウタがそう言った時はもう、アキに追い出されていた。
その後のキャンプは、誰も口を聞かず、地獄のような時間が過ぎていった。
帰りの電車内でも5人バラバラに座った。
カズヒロはアキの近くに座ろうとしたが、出来ずに終わった。
こうして、夏休みのいい思い出になるはずだったキャンプは、波乱を生むキャンプとなってしまった。