ん?どうした?
そんなに私が物珍しいかい?
ここで出会ったのも何か縁だ。暇つぶしに私の昔話でも聞いていけば良い。
君は「英雄」「勇者」と呼ばれる者を知ってるかい?
実は私もその端くれでね。「英雄」と周りが呼んでいたよ。
なに、大した事はしてないさ。困っている人がいたら助けたかったし、私の力で誰かを笑顔に出来る事が嬉しかった。
ん?偽善だって?
はは。そうだな…。そう見えるかもしれないね。
でも人助けに打算なんて必要なんてあるかい?
中には色々な思惑で自身の利己の為に誰かを助ける人もいるだろう。
なに、悪い事じゃない。それでも「誰」かは助けれているんだ。
困っている人がいたら助ける。
それが私の信念なんだよ。
おっと、話が反れたね。君が思う「英雄」とはどんな者だい?
怪物を倒す者?
国を救う者?
はたまた悪い奴から姫を救う様な者かな?
君の中の英雄像と他人の英雄像とは少しずつ違うんだ。
「こう言う英雄であって欲しい」
「英雄とはこう在るべきだ」
そんな風に思い思いの英雄が存在しているんだよ。
だから都合の良い「英雄」もいれば都合の悪い「英雄」も存在する。
私は目の色、髪の色、肌の色。そんなもの関係なく助けを求める人々を出来る範囲で助けたつもりだ。
ん?怖いものは無いのかって?
そうだな…。
いつも怖いものだらけだったし、怖い事だらけだったな。
意外かい?
英雄なんて呼ばれていたけど、私も1人の人間さ。怖いものなんていくらでもあるさ。
だけど本当に心から恐怖したのは、私を「英雄」と呼び、かつては私が助けた「人」だな。人の心とはとても脆いのだよ。
話が長くなってしまったね。もうすぐ日も暮れる。ほら君のご両親が迎えに来たよ。
また君がここに来るなら話を聞かせてあげよう。私が「英雄」だった時の話を…。
………
「ねぇ、お母さん。あの人はなんで、あんな事になったの?」子供が無邪気に指差し聞く。
「あそこで磔になっているのは敵国の人間を助けて処刑になった裏切り者よ。私も以前助けてもらったけど、英雄でもなんでもないわ!誰かれ助ける様な奴がいてるわけないわ!」母親が吐き捨てるように話す。
私は多くの人々を救った。しかし救った人々に私は「殺された」
君の目にはどう映っているかな?
かつて英雄と呼ばれた男の、この無惨に朽ちた骸が…