「秘書の坂本さんが自殺されてどう思いますか!?」
「裏帳簿があったのは本当ですか!?」
黒塗りの高級車に記者が群がった。
後部座席に大物議員の児玉がむすっとした顔をして座っている。
「おい、早く出せ!」
児玉の右腕の飯野が運転手に促した。
車は記者を押し退けるようにゆっくり動き出した。
「まったく…なぜ私がこんな思いをしなくてはならん」
児玉は顔をさらにしかめた。
「今は御辛抱下さい。坂本が死んだ今裏帳簿も闇の中ですから…。マスコミがいくら騒ごうと真実はわかりはしません」
飯野は冷静に答えた。
「まったく…誰がリークしたのか…自由党の奴らか?なんにしても忌ま忌ましい」
児玉はタバコに火をつけた。
その時、誰かが児玉を呼んだ。
「ん?なんだ?飯野」
児玉は飯野に話かけるが飯野は「先生どうなさいましたか?」と不思議そうに答えた。
『児玉さん…』
また声がする。
途端に児玉は体を強張らせた。
「先生!?どうしたんですか!?先生!」
飯野は児玉の体を揺すった。
「こっ…こ…ども…?」
児玉は汗を吹き出しながら顔を真っ赤にして呟いた。
その瞬間、児玉は白目を剥き、音がするほど歯を食いしばり小刻みに震えた。
そしてそのまま前に倒れ込んだ。
児玉の顔からは血の気は失せ、すでに呼吸を感じることはできなかった。
児玉の状態にただただ動揺する飯野ははっとした。
車内にどこからともなく微かに笑い声が響いていた。
飯野は恐ろしくなり辺りを見渡した。しかし飯野と同じく動揺する運転手以外誰もいない。
「何が起きているんだ…」
不安を隠せない飯野の額から汗が出てきた。そして、児玉と同じく顔を真っ赤にし、白目を剥き倒れ込んだ。
「ひいぃぃ!」
運転手は慌てて車外に飛び出し周りの人間に助けを求めた。
その日の夕刊には『疑惑の議員謎の死』と大きく書かれ、テレビでも各局で取り沙汰された。