ハントは背中に誰かを背負っていた。
慎重に降ろされたその人物が、ぶかぶかのパジャマを着た、あの金髪碧眼の魂の分け身の少年であることに気づき、途端に二人は体を強張らせた。
草地に降ろされた少年はわざとらしく服についた砂埃を払うと、ようやく今気づいた、というように、ジーナと王子に目を向けた。昼下がりの光のもと、青白い顔が一層浮き立って見える。
少年は薄い唇を歪めて、なじるように言った。
「あれ、お姉さんたち、何でこんなとこにいるの?」
尖った目つきからは、非難の色が伺える。それもそのはず、昨日王子が美香と耕太を逃がすために、猫にこの少年を人質に取らせて時間を稼いだからだろう。しかしもともと、この少年のせいで美香達の居所がばれ、ジーナ達は戦う羽目になったのだ。
だが、少年の前では迂闊に動けないのも事実だった。少年は覇王と直接につながっている監査員である。なぜハントに負ぶわれて来たのかはわからないが……。ハントが釘を刺すようにこちらを睨んでいる視線を感じながら、しかしジーナは言葉を慎むことはしなかった。
「何の用でここへ来た?」
腕を組み、不機嫌を隠さず逆に聞き返すと、少年は面食らった顔で目を丸くした。
それから、なぜか急に吹き出した。
「相変わらず、えらそうな態度だねぇ。まるでここがお姉さんのおうちだっていうみたいじゃないか。」
少年は何がおかしかったのか、その後もケタケタと声を立てて笑い続けた。三人は何もできず、少年の笑いが収まるまで、ただじっと互いを牽制するように相手の目を見つめ合っていた。
「そうだなあ、教えてあげてもいいよ。ケガが治ってるってことは、ラドラスさんが目をかけてる証拠だしね。」
どうやら少し機嫌を治したらしい少年は、そう勿体を付けた後、ハントを指差して言った。
「ぼくはこのお兄さんの監視に来たんだ。ハオウ様が治安部隊のお兄さんたちを信じられなくなったみたいでね。反抗しないように、見張ってないといけない。」
少年が目を向けていないのを良いことに、ハントは思いっ切り苦虫を噛み潰したような顔をして、地面を睨んだ。ジーナと王子は驚いて顔を見合わせたが、ハントの態度は、何より少年の言葉が真実であることを裏付けている。
(これで、治安部隊と敵対する理由が完全に消えたわけか。)
ジーナは品定めするようにハントを眺めた。