「少々お待ちください。」待っている間、タクヤは小さく声に出して読んでみた。
『…あなたの声は、どんな声をしてるの?
優しい声?低い声?
私はあなたが好きなのに、あなたの声を聞くことさえ出来ない。
あなたがどんなに叫んでも、
聞こえない。
あなたがどんなに私を呼んでも、
聞こえない。
でも、私はあなたの気配がわかる。
匂いが分かる。表情が分かる。
だから幸せ。…だと言いたいんだけど、
あなたは違う人が好きなんだね。』
タクヤはこの人の世界に心を打たれた。
すると、
「あっ、連れてきました。」
アキは、きょとんとしていた。
「あ、自分は為文大学1年の斎藤タクヤと言います…。」
アキは、ノートを取り出した。
『すみません。私は、耳が聞こえません。ゆっくりお話頂くか、筆談でお願いします。名前は東条アキです。』
その文章は、今まで何人もの人に見せたのだろう。髪は少しくしゃくしゃになっていた。
「分かった。」
タクヤは、手話でアキに伝えた。
アキはノートを咄嗟にしまって、
『え?手話分かるんですか?』
「自分のお母さんが、耳が聞こえないからね。」
『そうなんですか…。それで今日はどのような?』
タクヤはアキが書いた小説を手にとって、
「この小説は、とてもいい。まるで、君の感情がそのままこっちに持ってきたみたいだよ。」
『あ、読んで頂きありがとうございます。』
「それと、もうひとつお話があるんだけど…聞いてくれるかな?」
『何でしょうか?』