再放出をおえたノアのオーヴは、再び金色に輝き始めていた。
それを目にした段蔵が、戦慄の笑みをうかべる。
「…知りたくば、力付くで聞き出してみたらどうだ」
「是非もなしっ!」
段蔵へ歩み寄るノア。
そのノアを、半次郎が制止する。
「この場は私に譲ってください。
この人とは剣を交えなければならない理由が、私にはあるのです」
訝しげに半次郎を見る段蔵。
「妙な事をいう。
お前に恨みをかう覚えはないぞ、俺は」
まだ長尾性を名乗っていた頃の上杉謙信に仕えていた段蔵は、その時に武田家を追われて出奔してきた少年の事は記憶している。
だが、その時代に半次郎と関わったことはなく、言葉を交わした記憶すらない。
それで恨まれているのなら、段蔵も堪ったものではない。
「貴方と剣を交えるのは恨みではなく、贖罪です。
貴方が長尾家を追われる羽目になったのは、私のせいなのだから……」
全く心当たりのない段蔵は、更に訝しさをふかめていた。
今より十年前、景虎の庇護により長尾家で暮らすようになった半次郎は、その家中で異質の存在にあった段蔵を認識するのに、差ほど日数は必要としなかった。
半次郎が目にする段蔵はいつも城壁に腰掛け、一人遠くを眺めていた。
他を寄せ付けない孤高の気をまとうこの男に、いつしか半次郎は死んだ後藤半次郎やノアとどこか似たものを感じるようになっていった。
自然と段蔵に興味を持ちはじめる半次郎。
だが、景虎はそれを好ましく思わなかった。
忍者として比類なき才能をもち、乱を好んで和を厭う段蔵は、景虎の目には危険な男としか写っていなかった。
純真な半次郎には、悪影響が大きすると危惧したのである。
やがて景虎は、加藤段蔵の暗殺を謀るようになる。
野獣であれば飼い馴らすこともできるが、猛獣はその範疇にはない。
しかも段蔵は、猛獣であることに矜持をもった獣なのである。
その性格と能力を危険視されたことが、段蔵暗殺の理由であった。
だが別の要因として、半次郎の人格成形を考慮したことも確かであった。
その事を幼き日の半次郎は、敏感に感じとっていたのである。