初戦を華々しくかざった橘華高校野球部。
その翌日の練習風景はこれまでとは違い、疎らではあったがギャラリーをあつめる盛況ぶりであった。
そのギャラリー達から一際注目をあびていたのが、八雲だった。
一年生でありながらマウンドにたち、一安打完封に抑えこんだその実力は高く評価され、特にミーハーな女生徒達の関心を集めていた。
なれないギャラリーに三年生達は浮足立っていたが、八雲は一切気にせず練習前のストレッチに専念していた。
その八雲が移動すると、それにあわせて女生徒達も移動し、その一挙一動に黄色い声援をおくっていた。
「ウルサイッ!
練習に集中できねぇだろ〜がっ!!」
堪忍袋の緒が切れた八雲が怒鳴ると、女生徒達は蜘蛛の子のようにちっていった。
その光景を見ていた大澤が、笑みをもらす。
「あのお調子者が声援を嫌がるとは、意外だったな」
次の対戦相手である浦賀工業の資料を見ていた哲哉が、その言葉で八雲に視線をうつす。
「八雲は本来ああいうキャラクターなんですよ。
黙ってると結構いい男だから、無口だった中学の頃は女子に人気があったけど、一切寄せつけませんでしたからね」
「ほぉ」
中学時代の八雲を知らない大澤が、興味をしめして相槌をうつ。
哲哉はこれにつられるかたちで、話をつづけた。