「あの!…えーと。ありがとうございました。気持ちは…嬉しかったです。……でも…ごめんなさい。」
先輩は「こっちこそ、ごめん」とボソっと言って去っていった。
私の腕を綾瀬が引っ張る。
「あ、そっか!由美が私のこと探してるの?」
「……。」
綾瀬は腕を掴んだまま、私を連れていく。
「綾瀬?私もう転ばないから。」
「……。」
綾瀬は返事をしてくれない。
腕を引っ張られながら、図書館へ入っていく。一階の3年生たちは珍しくみんな帰っていた。そのまま二階の特等席まで連れてこられた。
「あれ?由美は?」
「あれは嘘だよ。」
ようやく綾瀬が口をきいたが、怒った口調だ。
ソファにドカと座り、ため息をついている。
「ありがと。助かった。あはは」
「『あはは』じゃねーだろ。ここから見てたら、だんだん先輩がお前に近づいてて、『危ないから離れろ』ってジェスチャーしても伝わんねーし、中庭行ったら危うくキスされそうになってるし。マジ焦ったわ。」
「何怒ってんの?」
私は窓に向かって座っている綾瀬の背中に話しかけた。
「……。」
綾瀬の背中が照れている。チラっとこちらを振り返り、「ちょっと臭いですけど、お隣どうぞ。」と言われた。