03.
「ユキ!」
後ろから名前を呼ばれて振り返る。
そこにいたのは、図書室で寝てたあいつだった。
あいつは私の腕をつかんで強引に引き寄せると、私にキスをした。
唇を離した時、あいつは私ににっこり笑いかける。
私はビンタを食らわそうと手を振り上げたけど、手の甲に激痛が走った。
「痛っ!」
痛みで目を覚ました私は、ベットのパイプにぶつけた手を擦りながら起き上がった。
「夢、か……」
あいつとのキスが夢に出てくるなんて。最悪。
しかもちゃんと唇が触れた感触もある。
最悪だ、最悪だ!
何であいつは私にキスしたんだろう。
理由はどうでも、あれが私のファーストキス。
本当、最悪。
*
学校に行ってあいつと会ったら気まずいなあ。
あいつは昨日の事覚えてるか分かんないけど。いや、覚えてなくていいけどさ。
それにしても、私のファーストキスはあんなのって凄い悲しい。
ファーストキスはロマンチックなものがいいって思ってたし。
忘れよう、忘れよう。無かったことにしよう。
キスしてない、キスされてない。
「ちょっとユキ。いつまで寝てるの?」
そう言いながらお母さんが部屋に入って来る。
「起きてるよ」
「ならいいんだけど。ご飯できてるからね」
お母さんが部屋から出たのを確認して、私は準備を始めた。
キスしてない、キスされてない。
そう唱えながら。
*
学校に着いて教室に入ろうとしたとき、正面から友だちのナナミが歩いてきた。
ナナミは私に気づくとすぐさま駆け寄ってくる。
「おはよ! いやー、丁度よかった」
「おはよ。丁度いいって、何が?」
「マサトの友だちが、ユキに用事あるって。ちょっとマサト、早く!」
ナナミの数メートル後ろにはナナミの彼氏のマサトがいて、その友だちはマサトの影になっていて顔は見えなかった。
「そう急かすなよ」
「遅い人がいけないの!」
「で。用事ある友だちって?」
私がそう聞くと、マサトの後ろからその友だちが姿を見せた。
それは、あの図書室で寝てたあいつだった。