第1話 こころ ?
そっと階段を降りて、玄関から外に出た。
冷たい空気が入ってくる。まるで、別世界のように感じた。
家の扉を閉めると、少し勇気を出したような、何かをなしとげたような気分になった。
一歩ずつ足を前に出して行くと同時にそれは納まって行くが、だんだん別の、
自分でもわからない、少し切ない感情が込み上げてくる。
でも、楽しい。
いつも自転車で通っている商店街が、まるで誰もいないみたいに静まりかえっていた。
まるで、不思議の国のアリスだ。
家から少し離れたところで、熊よけのラジオを付けた。
鈴でも良かったのだが、さすがにずっと鳴らす訳にはいかない。
それは、これからの目的のためだった。
浜辺に着いた時、私はまた、家の扉を閉めた時のような感情になった。
今日は、昼からずっといい天気で、潮風も比較的緩やかだった。
それでも、ニットの帽子をとれば真冬並みの北風が吹き付ける。
だけど、本当の私の目的は、海を見る事じゃない。
砂浜は満潮だったので、アスファルトにピクニックシートをひいた。
少し風でめくれたが、荷物をおいて、寝そべってしまえばこっちのもんだ。
私は降るような星を眺めた。
ただ、眺めているだけでいいと思った。