「それでも一人だけ、八雲に近づいてくる女がいたんですけどね……」
淡々と話す哲哉は、そこまでで話をやめてしまった。
「真壁はその女と付き合っていたのか?」
続きが気になる大澤が抑え切れずにきくと、哲哉は小さく頭をふった。
「あの頃の八雲は、異性に限らず全ての事に無関心でしたからね。
……だけど、小次郎がが死んだ時だけはさすがに一人が辛かったみたいで、その女に寄り掛かかろうとしたんですけど、そいつは落ち込んだ八雲を見て激しく罵り、それっきり近づかなくなりましたよ」
言葉の端々には棘が添えられていた。
その心情を推し量る大澤は、自然と無口になっていた。
その大澤へ、気持ちを切り替えて笑顔をむける哲哉。
「余計な事を口にしてしまいました。
今の話、八雲の前ではしないで下さいね」
無論、大澤もそのつもりでいた。
だが二人は、後日に思わぬ形でこの話題を口にすることとなる。