ハントはたちまち表情を改め、かしこまった態度でわずかに顎を引く。
少年は一瞬白けた目つきをしたが、すぐに事もなげに言った。
「お兄さんが持ってた強制労働施設の……統治権、だっけ?それを半分ラドラスさんに渡してたのを、全部ラドラスさんにゆずるようにって、ハオウ様が言ってたよ。」
「……全部、ですか?」
ハントは思わず眉間に力を込めたが、少年が見ている手前、大人しく引き下がった。
「承知致しました。覇王様にも、そうお伝え下さい。」
深々と頭を下げる。黒髪の後頭部がなかなか上がらないのは、その下の顔が歪んでいるからかもしれない。
王子がこっちを見てきたので、無言のままジーナは頷き返した。
ラドラスはやはりただの囚人ではなかった。わかっていたことではあったが、二人のやり取りを聞いていると、彼がかなり有力な立場にあることが、まざまざと突き付けられる。
しかも、これから彼はすべての統治権を手に入れるのだ。その権力は途方もなく大きくなるに違いない。
よく知っているはずの彼がどんどん遠く離れていくのを、ジーナは胸に穴が空くような心地で眺めていた。それが寂しさだとは絶対に認めない。遠くから振り返ったラドラスは、穏やかだが、どこか獣のように油断ならない鋭さを秘めた瞳で、ジーナに向かって微笑みかけてくる。
記憶の中の彼がいつも笑っていることに、この時まだジーナは気づいていなかった。
「それと、もう一つ。」
少年は不意にすっと人差し指を立てると、手近に建つキューブ状の建物の影になっている方を示した。
王子はハッと息を呑んだ。少年は奇妙に虚ろな目をしていた。それは姿を隠していた美香と耕太の居場所を正確に突き止めた時と、まったく同じ目つきだった。
「こそこそ隠れてないで、出てきなよ、ミルバ。」
がばっと音が聞こえそうなほど勢い良くハントが身を起こしたため、ジーナは驚いて、思わず反射的に剣の柄に手をかけた。
ハントの様子は尋常ではなかった。大きく目を見開き、震えるほどに拳を強く握って、少年の見つめる先を食い入るように見ている。
ジーナもそちらに目を向けたが、そこには何もいなかった。