交差点の信号が赤から青に変わり、それまで待っていたたくさんの人々が一斉に動き出す。
しばらくすると青信号が点滅を始め、まだ渡りきれていない者たちは小走りになって渡っていった。
だがその中に、交差点の中心で立ちどまったままの男がいた。
男はぼうっとしたまま点滅している信号を見ている。
そして信号が赤に変わるが、男はその場から動こうとしない。
車は男にクラクションを浴びせて、男の体すれすれを通り過ぎていく。
そんな中、遠くから1台の車が猛スピードで走ってくる。
その車に乗っていたのは柄の悪い男たちだった。
その車の運転手には男の姿が見えていたが、避けることはせずにそのまま走行してくる。
「邪魔だ! 退けっ!」
後部座席に座っている男たちは口々にそう叫ぶ。
運転手はさらにスピードを上げた。男はまだそこから動こうとしない。
男が動こうとしないのを見て、運転手はハンドルを切ろうとしたが遅かった。
その場にいた誰もがその瞬間を見まいと目を瞑った。
車が激しくぶつかる音があたりに響く。
それから間もなくして悲鳴がその場を包んだ。
割れているフロントガラスからは運転手の血だらけの上半身が飛び出て、後部座席に乗っていた男たちも同様にガラスで体を切っていた。
一方男は立っていた場所から1歩も動くことなく、左腕を横に伸ばした状態で車を受け止めていた。
すると男は車を左手だけで持ち上げ、近くにあった電柱に投げつけた。
その衝撃で電柱が信号待ちをしていた人々の方に倒れてきて、人々はその場から急いで避難する。
「うがあああっ!」
突然男は体を反らし虚空を見上げながら叫びだした。
すると男の胸から下腹部にかけて切れ目が入り、その切れ目が開くと中から巨大な芋虫が這いずり出てきた。
深緑色の太い体に、背中には鋭い針が検算のように連なっている。
それを見た人々は悲鳴をあげながらその場から逃げ惑う。