反射的にハンドルを切り、ブレーキを踏んだが、もう遅かった。
鈍い音が、彼の鼓膜を震わせる。車はそのすぐ後に止まった。
慌てて彼は車から飛び出した。醜く歪んだバンパー。割れて明滅しているライト。そしてヒビの入ったフロントガラスには、血が付着している。
それらは事故の酷さを生々しく物語っていた。
そして車から数メートル離れたところに、誰か倒れていた。どうやら、女性のようだ。そばには完全に折れた傘が落ちていた。
雨の中を走って近づいてみたが、彼女の足はあらぬ方向に折れ、膝の辺りからは、骨が皮膚を突き破り、顔を覗かせていた。
一応首に手を当ててみたが、やはり脈はすでになかった。
「どうしよう……。用事もあるし……」
彼には朝までに終わらせなければならない、重要な仕事があった。その仕事の出来次第で彼の人生が左右されてしまうほどの重大な仕事だ。
警察に連絡なんて出来るわけがない。
仕方なく彼は彼女の死体を車の後部座席に運んだ。
その時、突然空が光った。
車の中までが明るく照され、3人の男女の顔がはっきりと見えた。
3人共、頭から血を流し、首や腕などが異常な方向に向いていた。次の瞬間、腹の底まで響くかのような雷鳴が辺りに轟いた。
「こんな日に運転なんかするんじゃなかった。また掘る穴が増えちゃったよ」
彼はそう呟くと助手席に置いてあるスコップを見て溜め息をつき、再び車を発進させた……。