「両親が死んだとわかった時のあの子の大泣きした顔は今でも忘れられんよ。その悲しみはまだ癒えてはおらんじゃろうなあ」
「わかった時…ですか?間近で見た訳では…」
「ないんじゃよ」
レムは首を横に振った。
「事故に遭ったんですか?」
「いや、違う」
「なら…」
そこまで言いかけて、ザックははっとしたような表情でレムを見た。
レムはニヤリと笑って、
「何を思いついたのか知らんが、お前さんの思っている事は多分違うぞ」
と、言った。
「え?」
ザックは目を点にした。
「エミルの両親は病気で死んだんじゃよ。ただ、病に伏せっていた場所がエミルから遠かっただけじゃ」
「そうだったんですか」
彼はほっとしたような表情で、一つ小さく息を吐いた。
「さて、寝るかの。お前さん、エミルから毛布をもらっておるか?」
「はい」
「ふむ。それではな」
レムは伸びを一つして、奥の部屋へと入っていった。
ザックはその後ろ姿を見送ると、顎に手を当てて首を傾げた。
―病気で両親が同じ日に亡くなるものかな?
「まあいいか」
彼はそう呟くと剣の傍に置かれた毛布を手に取って、ランプの火を消した。