「今年も、もう終わりだね」
「ああ…」
年末商戦に沸くデパートを歩きながら、
哲彦と麻由は語り合っていた。
「哲さん…あのね」
「ん?なに」
「私、来年から本格的に研修と実習が、重なるから、こうやって、頻繁に会うことって、出来なくなると思うんだ。…本当は、何もかも辞めて、東京に行きたいんだけどね…」
「でも、ずっと自分がやりたかったことなんだろ?」
「うん。私ね、哲さんに出会わなかったら、今も夜の仕事を続けていたと思う。でもいつか、哲さんが『例え、今の仕事を辞めて、自分の夢を追うために、会えなくなっても応援するし、俺のために夢を捨てる必要ない』って言ってくれたから決心ついたんだ。ありがとう」
「こちらこそ。俺に出会って、そう決心ついたんなら、こんな嬉しいことはないよ。頑張ってね」
「うん。実習によっては、東京に行くこともあるから。その時は、お互いに、相談とか、近況とか話せたらいいんだけど…構わない?」
「もちろん。その時に、どんな立場になっててもね」
「うん、今まで遠くまで会いに来てくれてありがとう。…それと、あの人にも感謝しなきゃ」
「あの人?」
「義人さんに。私と哲さんを出会わせてくれた人だし…りおさんも、感謝してたよ。義人さんに出会って、もう一度、昼間の仕事で頑張ってみるって言ってたから。お母さんのこともあるけど…」
「そうだな…まあ俺が一番感謝してんだけどね。君とこうして出会えたから」
「うん!明日で帰るんだよね?」
「ああ」
「今日は、朝まで飲みあかしたいんだけど…構わない?」
「全然OKだよ。帰るの夕方だしね。」
「じゃあ行こう」
この後2人は、朝まで飲み明かした。
翌日、チェックアウトした哲彦は、由美のいる洋食屋と、かすみを訪ねた。
しかし…由美のところには、貼り紙がしてあった。
『長らく、ご愛顧いただきましたが、都合により閉店させていただきました。長い間ありがとうございました』と。
かすみのところも訪ねたが、退職したことを聞かされた。
「なんだよ…なんかさみしいなあ」
哲彦は、せつなくなった。
「この地で、出会えた人が、いなくなってくなあ…。また、俺達3人出直しかなあ…」
だが哲彦は、この後思わぬどんでん返しが待っていることを、知る由もなかった。