子供のセカイ。216

アンヌ  2010-11-09投稿
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「そして今が、まさにその『差し迫った事態』ってわけね。」
美香はぐっとズボンの生地に爪を立てると、テーブルを睨みつけた。衝撃が薄らぐと同時に込み上げてきたのは、火が噴き上げるような強烈な怒りだった。
なぜ。その問いがぐるぐると頭の中を巡り、しかし熱くたぎる思考の中で、次第にどうでもよくなっていく。
舞子の考えていることなどわからない。それは昔からそうだった。どんなに優しくしても、逆に厳しくしてみても、まるで効果はなかった。舞子はいつも我が儘ばかり言って、美香を困らせてきた。その程度ならまだいい。しかし、今回ばかりはそうはいかない。被害に遭うのは、美香一人だけではないのだ。
「あいつ、“真セカイ”をどうする気だよ。“子供のセカイ”だけじゃなく、“真セカイ”の方までめちゃくちゃにする気か?」
耕太が吐き捨てた台詞に、美香は答えることができなかった。美香もまったく同じ気持ちだったからだ。
両親の顔、友達の顔、親戚の顔、そして他の、思い出せる限りすべての人々の顔が浮かび、美香は苦い味を噛み締める。“子供のセカイ”の恐ろしさは充分に知っていた。計画が成功すれば、きっと、彼らの世界は終わる。
まずは子供達が恐怖のどん底に叩き落とされて、逃げ惑うだろう。“子供のセカイ”を見えも触れもしない大人達は、子供達の様子を見ることで理解しがたいものに脅かされ、右往左往するに違いない。それどころか、“子供のセカイ”が氾濫すれば、それを触ることができる子供達が傷つけられ、下手をすれば殺されてしまうかもしれない……。
(それが何でわからないの?あなたは、一体何を望んでいるのよ……!)
怒りや虚しさがないまぜになった叫びが口をついて飛び出しそうになるのを、美香は懸命に押し込めた。椅子の上で、飛ぶ力をなくした鳥のようにうずくまる。
そんな美香に対し、ミルバはどこまでも冷静だった。
「そうしていても、何も変わらないよ。君は賢いから、言わなくてもわかっているだろうけど。」
「……。」
美香は俯いたまま、か細い声で言った。
「ミルバの読みでは、トンネルはあとどのくらいで開通するの?」
「恐らく、五日。このまま予定通りに行けばね。」
耕太がわざと大きく足音を鳴らしながらソファに近寄り、ミルバのすぐ背後の背もたれに寄り掛かった。

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