ベースボール・ラプソディ No.51

水無月密  2010-11-10投稿
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 ケタケタ笑いながら八雲達のやり取りを聞いていた小早川は、再び須藤のサポーターに視線をうつした。
「そういやこの前見た地方プロレスの試合で、それと同じサポーターつけたマスクマンが出てたなぁ。
 背格好もちょうど竜之介ぐらいだったけど、まさかお前じゃないだろうな?」

 冗談で口にした小早川だったが、途端に須藤は無口になり、視線をそらした。

「………」
「お前かぁっ!!」
 声を揃えて荒げる小早川と八雲。

「頼むからこの事は秘密にしといてくれっ。
 素性がばれないことを条件に、ようやくリングに上げてもらえたんだ、だから頼むっ、この通りだっ!!」
 必死に頭を下げる須藤。

 唖然とする小早川と哲哉。
 だが、須藤が本気でレスラーを目指し、努力していることをしる八雲は一人微笑んでいた。

「そうか、夢にむかって大きく一歩踏み出せたんだな。
 応援するぜ、竜之介っ!」
「おう、まだ前座でやられっぱなしだけどな。
 いつかきっと、最高のレスラーになってみせるぜっ」
 目を輝かせる須藤。

「オマエならなれるさ、世界一のコミック・レスラーに」
「おう………?
 何で俺が、コミック・レスラー目指さなきゃなんねーだっ!」

 怒る須藤に、八雲は屈託のない笑顔でこたえた。
「そう怒るなって、でっかい夢にむかって突き進むオマエが、ちょっとだけ羨ましかったんだよ」

「……八雲、お前の夢って何なんだ?」
 ふと気になった須藤がたずねた。

 彼にとって、八雲は自分の夢を語れる、掛け替えのない知己であった。
 その友が一度も夢を口にしないことに、彼は日頃から微かな憂いを感じていたのだ。


「夢か……」
 少し考え込む八雲。

「昔はあった気がするけど、今じゃそれが何だったのかすら、わからなくなっちまったな」
 小次郎と甲子園にいくというのは約束であり、厳密には夢ではなかった。

 仮にそれを夢と位置づけたとしても、それはどんなに努力してもかなうことはないのである。


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