「きっと変身の練習をする、良い機会にもなるはずだ。」
そう付け足したミルバに、耕太は間抜けな顔で口を開いた。
「……変身?」
「まさか、耕太の想像で私達の姿を変えて、城に忍び込むってわけじゃないわよね……?」
嫌な予感を覚えながらも、怖ず怖ずと美香が口にすると、ミルバはそれこそ、何を言っているんだ、という顔つきで美香を見返した。
「当たり前だろう。他にどんな方法があると?」
美香は再び椅子の上でがっくりとうずくまり、耕太はそんな美香を大袈裟に指差して非難した。
「あー!お前、俺の力を信用してねえんだろ!」
「……そういうわけじゃないけど、変身って……なんか、不安ね。」
美香は舞子を追って“闇の小道”から“子供のセカイ”に入る時、耕太を入口に見立てて想像したことがある。あんな一瞬の場面で変身するならまだしも、城に侵入し、囚われているもう一人のミルバや舞子に辿り着くまで、ずっと自分以外の何者かを演じなければならないというのには、どうしても閉口した。
それを信頼されてないと感じたのか、まだ色々と不満げな耕太に、ミルバの低い声がかかった。
「耕太。」
「あー…はい。」
ぴりぴりした空気に気づき、耕太は慌ててかしこまった。
「君は明日から変身のための想像の練習、剣術の稽古、さらに言うなら精神面の向上に努めてくれ。」
「美香は想像の力は使えないんだったね。じゃあ舞子をどう説得するか考える。城への侵入方法の考案も、君に任せた方が早いだろう。」
テキパキと学校の先生のように指示され、二人は渋々頷いた。どの道、文句を言っている場合ではない。たった五日で策を練り、準備を終え、舞子を止めなければならないのだ。
ミルバは大きな深緑の瞳で二人を射抜くと、
「少しだけ休ませてもらうよ。その後出掛けるが、おそらくもうこの家には戻らない。」
そう言い放ち、目線を切って床に移した。
戻らない。その言葉は重い鐘の音のように、美香と耕太の胸を揺さぶった。
朝の会話から、覇王をおびき出した後のミルバがどうなるか、大体の想像はついている。さらにミルバから聞かされた話の中で、一番最初に美香と耕太を助けてくれたミルバは、夜羽部隊との激闘の末、命を落としたことを知った。