流狼−時の彷徨い人−No.68

水無月密  2010-11-24投稿
閲覧数[626] 良い投票[0] 悪い投票[0]

 半次郎を刮目する段蔵は考えていた。
 この若者がもつ水晶眼には、どれだけの洞察力が秘められているのだろうかと。

 半次郎の危惧するとおり、実力の拮抗した者同士の死闘では、雌雄が決しても勝者が深刻な痛手を負うことは珍しくない。
 それは段蔵自身も知るところだが、自分とノアの相討ちがハクの闊歩につながるとまでは、思慮がおよばなかった。

 そう、段蔵は知っている。
 ハクという名の男を、その存在自体がいかに脅威であるかを。

 そして半次郎の水晶眼は、会ったことすらないハクの危険性を、驚くほど正確に感じ取っていた。


 段蔵にはもう一つ、気になる事があった。
 半次郎は先刻に贖罪と口にしたが、その対象者に剣をむける行為が、何故それに値するかと。

 おそらくは、その場凌ぎにでた言葉であったのだろうと判断した段蔵は、所詮はその程度の男かと軽い失望を感じていた。


 段蔵と対峙する半次郎は、剣を構えたまま動けずにいた。
 半次郎の基本戦術は後の先をとる闘い方であり、これは相手の攻撃を受け流して一撃をくわえる闘い方であった。

 だが、当の段蔵が攻めてくる気配すらみせぬのでは、打つ手がなかった。

 半次郎から仕掛けるという手もある。
 だが、得意とする戦術を捨てて闘うには、段蔵とは実力の差があり過ぎた。


 攻め手をかく半次郎。
 その肩を、ノアの左手が制止した。
「クリスタル・アイズの能力が本当にあるのならば、オマエに万に一つの勝機すらないことを理解しているはずだ。
 ヤツとオマエとでは、それ程までに戦闘能力の差があるのだ」
「……あの人に勝てるなどとは、端から考えていません。
 ですが、昂揚したあの人の闘争心を満足させるくらいなら、できるかもしれない。
 それさえできれば、彼は貴女との闘いをやめてくるでしょう」

 訝しげに半次郎を見るノア。
「何故そう断言できるのだ?」
「……あの人の闘う理由が忠誠心や使命感ではなく、闘争本能を満たすことだからです。
 唯一それだけが、あの人の孤独な心を満たす方法なのでしょうから」


i-mobile
i-mobile

投票

良い投票 悪い投票

感想投稿



感想


「 水無月密 」さんの小説

もっと見る

ノンジャンルの新着小説

もっと見る

[PR]


▲ページトップ