半次郎を刮目する段蔵は考えていた。
この若者がもつ水晶眼には、どれだけの洞察力が秘められているのだろうかと。
半次郎の危惧するとおり、実力の拮抗した者同士の死闘では、雌雄が決しても勝者が深刻な痛手を負うことは珍しくない。
それは段蔵自身も知るところだが、自分とノアの相討ちがハクの闊歩につながるとまでは、思慮がおよばなかった。
そう、段蔵は知っている。
ハクという名の男を、その存在自体がいかに脅威であるかを。
そして半次郎の水晶眼は、会ったことすらないハクの危険性を、驚くほど正確に感じ取っていた。
段蔵にはもう一つ、気になる事があった。
半次郎は先刻に贖罪と口にしたが、その対象者に剣をむける行為が、何故それに値するかと。
おそらくは、その場凌ぎにでた言葉であったのだろうと判断した段蔵は、所詮はその程度の男かと軽い失望を感じていた。
段蔵と対峙する半次郎は、剣を構えたまま動けずにいた。
半次郎の基本戦術は後の先をとる闘い方であり、これは相手の攻撃を受け流して一撃をくわえる闘い方であった。
だが、当の段蔵が攻めてくる気配すらみせぬのでは、打つ手がなかった。
半次郎から仕掛けるという手もある。
だが、得意とする戦術を捨てて闘うには、段蔵とは実力の差があり過ぎた。
攻め手をかく半次郎。
その肩を、ノアの左手が制止した。
「クリスタル・アイズの能力が本当にあるのならば、オマエに万に一つの勝機すらないことを理解しているはずだ。
ヤツとオマエとでは、それ程までに戦闘能力の差があるのだ」
「……あの人に勝てるなどとは、端から考えていません。
ですが、昂揚したあの人の闘争心を満足させるくらいなら、できるかもしれない。
それさえできれば、彼は貴女との闘いをやめてくるでしょう」
訝しげに半次郎を見るノア。
「何故そう断言できるのだ?」
「……あの人の闘う理由が忠誠心や使命感ではなく、闘争本能を満たすことだからです。
唯一それだけが、あの人の孤独な心を満たす方法なのでしょうから」