「お帰りなさい、遅かったのね。」
仕事仲間と呑んだ帰り。
家路に着くと出迎えたのは、テーブルにうつ伏したままの妻だった。
「ああ、ちょっと呑んできたもんでな。」
「今日は早く帰る、て言ったじゃない。」
「そのつもりだったけど…。」
ネクタイを外した俺はそのとき、泣いている妻の様子に気づいた。
「ごめん。」
謝ってみるが、彼女の泣き声は止まらない。
「なんで早く帰ってきてくれなかったのよ。そんなんだから、私…。」
顔を上げた妻を見て、俺は目を丸くさせる。
「どうしたんだ、お前?。」
…その口元には、赤黒い血の跡がベッタリと広がり、
着ているエプロンにまで、染みを作っている。
「あいつらに食われちゃったじゃないの。」
そう言って、恨めしげに俺を見つめた。
…焦点の定まらない、
明らかに妻とは違う、銀色に光る瞳で。
『午前さまと鬼嫁』終。