治安部隊の若者たちは、広い食堂の壁際に等間隔に並んで立ち、囚人たちを見張っている。
とはいえ、あの金髪碧眼の魂の分け身の少年が言ったように、強制労働施設の統治権はすでに彼らから離れているはずだから、ほとんど形だけと言っていいだろう。
それを知ってか知らずか、五十人からなる囚人たちは、時折にやにやと笑いながら治安部隊の方を振り返り、意味ありげな目配せを交わしている。まるで、今や自分たちこそ治安部隊を見張っているのだと言わんばかりに、あからさまに治安部隊の傍に立ってジロジロとぶしつけな視線を浴びせる者までいた。
しかし若者たちは、ぴくりとも表情を動かさない。彼らの腕っ節の強さを知っているだけに、王子にはそれが素晴らしい姿勢に思えた。治安部隊は個性溢れる青年たちの集まりではなく、巨大な一枚岩の体裁を成している。恐らく、ハントやルキを中心に据えて。
(そういえば、その二人の姿が見えないな……。)
地下の扉のところで出会ったユジユとサクの姿は見つけられたが、ハントとルキは今ここにはいないようだった。強制労働施設の囚人収容部は、五つの建物から成っているため、別の建物を担当しているのかもしれない。
ハントとは内密に話をしなければいけないというのが王子とジーナの間で合致した意見だったため、そのことに王子はわずかな焦りを感じた。
その時、隣からガチャガチャと派手に食器を鳴らす音が聞こえてきて、王子は物思いから覚めた。横目に様子を伺うと、やはりジーナは、すこぶる不機嫌な顔をしていた。すさんだ目つきは、それだけで鳥を射落とせそうなほどである。彼女の気に障らないように、王子は再び、黙々とフォークを口へ運んだ。不機嫌の理由は、聞かなくてもよくわかっていた。
ジーナの真向かいの席に陣取り、にこにこと笑いながら頬杖をつくラドラスの姿があったからだ。
いっそ嫌がらせではないかと、王子はばれない程度に肩をすくめた。
「……目障りだ。失せろ。」
口の中のものを嚥下した直後、ジーナは周囲に聞こえないほど低い声で悪態をついた。
ラドラスはいっこうに気にした様子もなく、
「つれないこと言うなよ。同じ囚人仲間だろ?」
と、思ってもいないだろう言葉を抜け抜けと口にした。
それからジーナに反論する隙を与えず、今度は王子の方を向いた。