八雲を見る大澤は、あらため考えていた。
真壁八雲という男の本質を。
相手を深く理解し、まっすぐに接するからこそ、あの男は人を引き付けるのではないかと。
数ヶ月前までは孤独の中にいた大澤が今この場にいるのも、八雲だけがその孤独を理解し、正面からぶつかってきたからこそなのだから。
「自分は急ぎすぎているのかもしれません。
ブランクがある大澤さんや八雲の事を考えるなら、無理に勝ち進むよりも来年の事を考えた試合をするべきなのかもしれません。
……だけど自分も、一つでも多くこのチームで試合がしたいという想いは、抑え切れそうにはないです」
哲哉がそう語ると、大澤は優しく微笑んだ。
「いいチームだからな、今年の橘華野球部は」
大澤も同じ想いなのだろうと、哲哉は感じていた。
八雲達を眺める哲哉と大澤は、自然と穏やかな表情になっていた。
その中で、大澤がぽつり呟く。
「……あいつら、喧嘩を始めたなぁ」
「ええ……」
にこやかにこたえる哲哉。
「……小早川も加わったぞ」
呆れ返る大澤に、哲哉は表情を変えずにこたえた。
「どうせくだらない理由だろうから、ほっときましょう」