翌日、家を出て十字路へ向かうとケイタが塀に背中をつけて立っていた。
私は自然にケイタの前を通り過ぎる。
するとケイタは小走りで私の横にくると並んで歩き出した。
「おはよ、ユキ」
「……おはよ」
「今日いつもと髪型違うね。俺のために気合い入れた?」
「違う!」
確かに今日はいつもと髪型違う。
いつもは髪を下ろしてるけど、今日はハーフアップにして毛先を巻いてみた。
けどこれは気分。本当に気分。
あんたのためじゃないし。
「いつものもいいけど、今日のも可愛いね」
そう言われて、ちょっとドキッときた。
正直、嬉しい。
うわ。何、私!
こいつは私のファーストキスを奪った奴なんだよ?!
どうせそんな言葉、他の子にも言ってるに違いないんだから!
その時、前の方にマサトの姿を見つけた。
私は走ってマサトの方へ向かい、背中を強く叩いてやった。
「痛っ! 何だよ、ユキ!」
「何であいつに、私のアドとケー番教えたの?!」
「別にいいだろー。無断で教えたことは謝るけど」
これ以上攻めてもしょーがないなあ。
私が大きなため息をすると、ケイタがやってきて話に加わろうとする。
「何の話?」
「何でもない」
「あ、ケイタ! 何で昨日掃除当番さぼったんだよ?!」
「ユキと帰りたかったから」
「あのなあ。ユキからも何とか言ってくれよ……。って、いねえし」
マサトがケイタに話み振ったことをいいことに、私は2人をおいて学校へ向かっていた。
ケイタとはなるべく関わりたくない。
───『いつものもいいけど、今日のも可愛いね』
思い出して、顔が赤くなったような感じがした。
どうした、私。
ただ今まで言われたことないから、免疫ないだけかな。
うん。そうだよね。そうに決まってる。
私は自分にそう言い聞かせて校門をくぐった。