日新館では日が経つ度に、戦に備えての訓練が行われる様になっていた。学舎に鳴り響く銃声、木めがけて刀を降り下ろす少年達…。彩はそっと丘の上から木に隠れてそれを見ていた。『もう―、駄目…戦争は避けられない…』彩の頭の中に絶望が走る。そんな時、火縄銃を構えた少年達の中、悌次郎を見つけた。砲術が得意な悌次郎は、皆の先頭になって取り仕切っている。『悌次郎君…』彩の目に涙が溜る。悌次郎は一瞬丘の方に目をやり、彩が居る事に気付いた。『彩さん―』そう心で言いながら、目で合図を送った。彩も合図に気付き、こくんと頷いた。すると悌次郎は、懐から彩が手作りした拭沙(ハンカチ)を覘かせた。それが自然になったのか、業とやったのかはどうか分からない。ただ、どちらにしても彩に対する愛情表現だったのは確かであろう。『ずっと…持っていてくれたんだ―!悌次郎君…』彩は心の中で何度も[悌次郎君]と叫んだ。 (続)